第九話・聖教会本部
さて、これから二人が向かうのは、この町から見て西の方角にある建物だ。それは、『聖教会』の総本山である。切り立ったガケの近く、深い木々に囲まれた場所に荘厳な城らしき建物が建っている。
聖教会は歴史ある宗教組織である。現在より約二〇〇年前のリアルト暦一二五八年に、初代教皇でもあるリチャード・メイアが設立した。現教皇は四代目で、『神の使徒』でもあるファウストだ。ファウストは最初の『神の使徒』であり、『神の使徒』の中で最高の力を持つ者でもある。
現在五名の『神の使徒』が聖教会に所属している。フィアも仮所属ではあるが、そのうちの一人である。フィアの師であるファウストは行方不明だが、四人の『神の使徒』だけでも、聖教会に敵対する宗教組織―――ウィザード協会を倒すことはできたのだが、それにはできないある事情があった。
それはともかく……
二人は草原を歩いていた。この辺りは強い海風で木々はあまり育たないためだ。それでも、南国風な木々がかなりまばらにある。
後ろを振り向くと、テフヌートの外壁と門が小さく見える。海のほうを見ると、小さな漁船がいくつも浮いている。今も、手フヌートの港から船が出て行っている。
これから向かう聖教会本部のほうを見ると鬱蒼とした森から、城の上部の部分が突き出ている。また、聖教会本部を囲む深い森は、やはり魔法によって維持されていた。
魔法の森があるのにも理由がある。一つは、道案内なき依頼者を通さないため。聖教会だってヒマなわけではない。無駄な仕事を増やさないためにも、聖教会への依頼は各々の街や村にある支部を通してすることになっている。
もうひとつは、聖教会の機密事項の保守と罪人・悪魔の逃亡を防ぐためだ。現在、罪人等は聖教会にはいないが、『神の使徒』やツールを持つ者のための訓練のために一番弱い下等悪魔を常置している。とはいっても、何の力もない人々にとって弱い悪魔でも脅威だ。そういう事情もあって魔法の森が存在するのだ。
それはともかく……フィアは溜め息を吐いた。
成り行きとはいえ、まだ幼いローザリーを聖教会に連れて行くことはためらいがあった。
現在、世界的に見て能力者は少ない。そのため、自ら聖教会に身を投じ、戦いに赴く能力者は優遇される。一方、強制的に連れてこられた能力者などはそうはいかない。自らの意思で前者のようにしない限り、魔法や薬品で使われることになるか、あるいは一生聖教会に幽閉の身となる。それが、聖教会の裏の部分である。
フィア自身は魔力のコントロールや『神の使徒』であることも含めて前者であったが、ローザリーはどうなるかわからない。ローザリーは口ではこう言っているが、なんとなく心配だ。
フィアはまたもやため息をついた。
「どうしたんですか? 溜め息ばかり吐いて……」
「いいえ、なんでもないから!」
「そうですか? それならいいんですけど……」
ローザリーは首をかしげながらも、フィアのため息の原因についてこれ以上詮索しなかった。
今度は心の中で溜め息を吐く。
聖教会本部の入口である魔法の森が目の前に口をあけていた。
物の数分のうちに空へ塔がのびる古びた洋館のような城のような建物―――聖教会本部が姿を現していた。
「……うそ……森の中に入ったばっかりだったのに!」
ローザリーは唖然としていた。それもそのはず。ローザリーの感覚では今日中に到着するのは無理だと告げていたはずだ。
後ろを振り向いてみてみるが、森に入ってきた所も、今通ってきた道さえもなくなっている。多くの木々と人工的に埋められたように見える低木が生えているだけである。
「ここは聖教会本部なのよ。森の中にちょっとした近道を作ることも、海の近くで育たない木々を育てることも容易なの」
フィアは簡単に説明した。本当はそれだけではない。
推測であるが、むこうの奴らはフィアとローザリーがここへ向かっていることに気がついていたはずだ。少なくとも、フィアに関しては師匠であるファウストからも連絡が行っているハズである。
そのフィアが能力を持つローザリーを連れて来た。しかも、元王国公認自治軍少佐である。
そのためであると思われるが、おそらく一番早い道を選ばされていた。それも、戻るための道を消して。
ともかく二人は入口を探した。目的の扉はあっけなく見つかった。その扉は木製であったが様々な彫刻が施してあり、その彫刻は緻密で精巧で、まるでかつて存在したといわれるエルフが作ったかのように華美でもある。
「わぁ……」
聖教会本部の外形が変化していた。それはいくつかの塔がまとまっているようだった。その塔の頂上は見えない。木材でも石でも煉瓦でもないもので作られているようだ。
ところどころに窓が見える。その窓枠にも同様な彫刻が施されている。そして、壁には控えめに蔦がつたっている。
フィアは芸術の塊であるような扉に歩み寄り、ノッカーを二度鳴らす。
扉は内側から開かれた。
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