第三話・赤と青の瞳
ローザリーは引き金を引いた。
拳銃は大きな音を立てて銃弾を吐き出した。その銃弾は、そのままちょうど振り向いた悪魔の額に向かって突き進んでいく。
自分に向かって飛んできた銃弾に気が付いた悪魔は、とっさによけようとする。運悪く、銃弾は悪魔の額をかすめただけだった。そのまま銃弾は大きな音を立てて、窓ガラスを突き破る。
あまりにも大きすぎる音に、悪魔は思わずそちらに気を取られてしまった。
ローザリーが撃った銃弾の数は、決して一発だけではない。あらゆる事態―――つまり、悪魔が一発目の銃弾をよけた場合や、全く当たらない場合を考慮して、悪魔の死角から数発、それ以外の間所からも、数発撃っている。
ローザリーは、とても十四歳とは思えない頭脳を駆使して、拳銃の引き金を引き続ける。ローザリーの拳銃は、銃身後部に蓮根状の弾倉を持つリボルバー。弾数にも限りがある。
死角から撃った銃弾は、全て額をかすめただけに留まった。だが、人間で言うと心臓がある箇所に向かって撃った一発だけは、さすがに悪魔もよけきれなかったようだ。
「……クッ!」
悪魔の左腕が、特殊な銃弾の効果によって、消滅した。その箇所からは血が出ることもなく、ただ腕が消えたかのようだ。
ローザリーは新たな攻撃を仕掛けようと思い、引き金を引く。だが、火薬が銃弾を打ち出す音も、その銃弾が着弾する音も、何もしなかった。
ただ、引き金を引いた軽い音だけが空しく宙に響き渡った。
ローザリーのリボルバーは弾数が八発。その全てを撃ちつくしてしまったのだ。
「チッ!」
ローザリーは舌打ちをして、次の弾薬を押し込む。
それを見た悪魔はにまりと笑った。
悪魔はつかつかとローザリーに近寄り、拳銃を蹴り上げる。軽い音を立てて弾薬と共に吹き飛んだ。
「まさか、一般人がシルバー・ブレッドで攻撃してくるとは思ってもみなかったわ。……けれど、お遊びはそろそろおしまいよ」
悪魔は残った右腕に魔力をためはじめる。
シルバー・ブレット―――それは銀でできた銃弾のことである。全く力を持っていない、ごく普通の人間にとっては、悪魔に対抗できる唯一の武器と言えるものであった。
その悪魔に対抗できる唯一の武器を失ったローザリーは無力に等しかった。
万事休す。それしか言いようがない。
「クス……いただきます」
悪魔は右腕をローザリーの上に振りかざした。
思わず目をつぶった。
痛みを、死を覚悟していた。けれど、それはいつまでもやってこなかった。いぶかしく思ったローザリーはそっと目を開ける。
そこには思ってもみなかった光景が広がっていた。
目を開いて最初に目に入ってきたものは、仰向けになって倒れている悪魔だった。
「ローザ、大丈夫?」
「はい。ありがとうです。大丈夫です」
間一髪だった。フィアが駆けつけなかったら、と考えるとぞっとする。フィアが来たなら、もう大丈夫。フィアが下等悪魔などに負ける心配はない。ローザリーは心の中でうなずいた。
「うっ……」
まだ、生きている。呻きながら起き上がると、こちらを睨みつけてきた。
「まさか、感づかれるとは思わなかったよ。それに、その瞳……」
本性を現したように笑う。その笑い声は先ほどと打って変わり、しわがれた老婆のような声。とても同一人物とは思えない。
そして、二人の顔を見た。
フィアとローザリーの瞳。二人とも、左右の瞳の色が違う。右目は赤い、ルビーのような瞳。左目は青い、サファイヤのような瞳。
その瞳は決して遺伝や人種独特なものではない。それは『悪魔判別』と呼ばれる能力を持つものだけが、開眼する特殊な瞳。ローザリーが十四歳という若さで少佐に昇進した由縁でもある。
「……これが何?」
フィアは冷たく悪魔を見返す。
その瞳には冷静さと怒りが共存していた。
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