第十五話・襲撃
橙色の太陽が山々を越えて、世界を明るく照らし始めた。橙色の光が収束すると、青い空が姿を現す。その澄み切った空は王都の様子を写し取っているのかのように晴れ渡っていた。まだ朝早いとはいうものの、街の各所で朝食の用意のあたたかな煙が上がり、市場や店舗では開店の準備で賑わいはじめている。
時折吹きすさぶ風はまだ冷たさを含んでいたが、その中にも次第に春を感じるようになってきた。もちろん風の中だけではなく、様々なところで春を感じるようになってきている。山々からは雪の帳が消え始め、緑を覗かせている。その緑の上に様々な動物達が姿を現していた。
そんな中、王宮ではウィザード協会に対する用意が着々と進められている。街の門戸、王宮の門戸は堅く閉じられ、王宮の内部には隅々まで衛兵が配置されている。
狙われている第二王女オベリスクはラルドと共に、奥まった私室にいた。寝台の端に腰掛けるオベリスクはいつもどおり上から下まで黒い格好であるが一点だけ異なる点がある。それは顔を覆う黒いレースでできたベール。それがオベリスクの表情を隠している。
「ラルドさん、来ます」
オベリスクの声と共に寝台から十メートルほど離れたドアが光り出す。その扉はとてつもない破壊音と共に空気中へ消滅した。
「とりあえず、侵入成功?」
「姐さん、これじゃ、すぐに見つかるって」
消失した扉の向こうから現れたのは一組の男女だった。男の方はがっしりとした体躯で、額から耳にかけてバンダナをつけ、身の丈以上の大きな斧を手にしている。一方で女の方は長い髪を頭の上部で一つにまとめ、体には見えるか見えないかギリギリの薄布をまとっている。
「ウィザード協会の登場か……」
そう言ったラルドは、すぐさまルーン文字を宙に描き、魔法を唱える。
「偽りの姿を示せ。『変化 』!」
同時に各所でざわめきが聞こえる。前準備として、魔法による緊急連絡具を設置しておいたのだ。それが今の魔法『変化』によって侵入者の存在を衛兵達に知らせた。
「たかだか二人。あなたたちがいくら『神の使途』でも対悪魔用に鍛えられた兵士達には勝てませんわ。今すぐ投降することをおすすめしますわ」
「ここまで来て投降するはずがないって。ロー!」
その声と共に、ローと呼ばれた青年は斧を構えて駆け出す。短い呼気が出されると同時にその重たい斧をラルドに向けて振り下ろす。
ラルドはローの攻撃をいつの間にか現れた槍でそらすと、柄のほうでローの腹部を思いっきりついた。ローはその攻撃をもろにくらい、女性のほうまで吹き飛ばされる。
ラルドのやりはもちろんツールで、対悪魔用槍型ツール『パルチザン』という。このツールは数多くあるツールの中でも特殊で、基本の槍という形状を保ったままラルドの意思で自由にその形を変える。それにさらにかまいたちなどの効果がある『風属性付加』がかけられてあるため、殺傷能力が高くなっている。
「悪を神の手におさめよ。『封印結界』」
「うそ、魔法っ! 我は解放を求めんっ、『結界破壊』!」
オベリスクの唱えた『封印結界』と、その対抗魔法であり女性が唱えた『結界破壊』。共に同位の低級魔法であるそれらは互いにぶつかり合う。同位の魔法がぶつかり合った場合、勝負がつくのは純粋に魔力の強さ―――容量だ。
ラルドに向かって斧を振り上げていたローはすぐさま女性の援護に入ろうとするが、すでに時遅く、淡い光の玉のようなものが女性を包み込んでいた。
「エリー姐さん!」
ラルドとオベリスクはそんな二人を尻目にテラスへ向かう。テラスに出るとすぐさまラルドは『変化 』と唱える。こうすることで今回の"作戦"の進行具合を外に伝えているのだ。
「待て!」
『封印結界』を破るのに手間取ったのか、ローは方で息をしている。エリー姐さんと呼ばれた女性は鉄扇を片手にラルドに向かって駆ける。オベリスクは迷うことなく手に収まるぐらいのハンドガンで、エリーを撃った。
エリーは弾丸を鉄扇を広げることでガードし、右上から左下に鉄扇を振り下ろす。しかし、ラルドの体に当たることなく、槍に受け止められる。
「くっそ〜!」
闇雲にエリーは鉄扇でなぐが、軽々と避けられてしまう。歯がみしながらも攻撃する手をゆるめていない。しかし、現在四人が居るのはさほど広くないテラスだ。力負けしているエリーは次第に部屋の方へと追い込まれる。
ローがエリーの支援に入ろうとしたとたん、オベリスクが、ロー、エリートラルドの間に割り込む。そして魔法をつむぐ。
「『閃光』」
「きゃ!」
眩い光がローとエリーの網膜を焼き、体を貫いた。視界がもとに戻ったローとエリーの前にはオベリスクとラルドの姿はなかった。
「逃げられた! エリー姐さん……」
「ええ。誤算もいいところよ」
エリーは床に鉄扇を投げ捨てた。それはテラスの手すりに当たって止まった。
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