第十二話・王都へ




 今、フィアはリアルト王国王都ファルシールに向かっていた。ローザリーは一緒ではない。その代わりといっては何だがラルドと共に、だ。ローザリーは今頃聖教会本部で本物の悪魔を相手に訓練をしているため、こんな不思議な組み合わせになったのだ。
 フィアとローザリーが聖教会に本部に到着してからもう二ヶ月も経とうとしている。ファウストからの連絡は一向になく、フィアの兄レイナードに関する情報もない。その上、ウィザード協会も大掛かりな行動をせずに沈黙を守ったままだった。
 用はヒマだったのだ。この二ヶ月間、フィアは小さな以来を二、三こなしただけで他は単調な訓練の繰り返しであった。
 しかし、今は暇ではなくなった。ファルシール支部からの救援要請。依頼相手はリアルト王国王家。『神の使徒』が二人も行くほどの大きな仕事。
 依頼内容は久々にウィザード協会が絡んでいた。『悪魔判別』の能力を持つ第二王女誘拐計画。ご丁寧に誘拐予告のカードを送りつけてきた。
 ウィザード協会―――つまりは魔法を相手にであれば、さすがの王家も聖教会に依頼しなければどうしようもない。このことを見越して予告状を送りつけたのであれば、これは本格的にウィザード協会が聖教会に対立しようとしていることを意味することになる。
「ラルドは今回のウィザード協会の行動についてどう思う?」

「目的は明白だ。リアルト王国第二王女の誘拐とそれに伴う破壊行為。通常セオリー通りであれば聖教会支部の破壊行為も伴う」

 ラルドは単調に必要最低限のことを話すと黙ってしまった。フィアとしてはもう少しラルドと会話をしたいと思っていたのだが、これでは話の展開のしようがない。仕方がないので適当な話をふってみる。

「えっと……ラルドって実は話すのが好き?」

「否。何故そう思う?」

「第一に話す前に一瞬何を言おうか迷っているときがある。第二に話しているとき少し表情が変わっている、からかな。話すのが好きというよりは教えるのが好きというカンジが強いけどね」

「……そうかもしれない。今まで自分のことなどあまり考えたことがなかったからな」

 そのまま、押し黙ってしまった。空気がどことなく重い。フィアは慌てた。

「ごめん!」

「否。何故謝る?」

「……。とりあえず、ごめん」

 ラルドにも何か思い当たることがあったのか、それ以上追求してこなかった。フィアが気づいたのは『今まで自分のことなどあまり考えたことがなかったからな』というラルドの言葉。悲しい、重い、魂の叫び。
 もしかしたらラルドは、薬や魔術で聖教会に使役されていたのかもしれない。違ったらとても最低な考えであるが、ラルドの言葉が機械のようなイメージを抱かせることにも納得がいく。
 そうであればフィアの言葉は決して触れてはならない心の奥底にある箱に手をかけてしまったことになる。誰も触れてはならない、開けてはならない箱に。フィアが持つものと同じような箱に。
 フィアはラルドのそこに土足で踏み込んでしまいそうになった。気がつかなければ、ラルドの心を破壊していたかもしれない。そう考えると体が震えた。

「どうした、寒いのか?」

「何でもない」

 ただ黙々と足を前に進めるしかなかった。
 聖教会本部から王とファルシールまでは徒歩で約十日の距離。ウィザード協会が指定してきたのは、本部に連絡がきた一週間後。一般人ならば馬を乗り潰してギリギリ間に合うところだろう。
 しかし、現在ファルシールに向かっているのは『神の使徒』の中でも体力に優れた二名である。さらに『音速ボイススピード』も加えれば約三日で到着するだろう。現在は全工程の二日目である。もう、王都が見えそうで見えないようなところまで近づいていた。

「そろそろ休息の時間だ」

 ラルドは緑が深い大きな木の下を休息の場に決めると簡易的な夕食を作り始める。フィアは静かにうなずいて乾いた枝を拾い集め、魔法で火を灯した。ぱちぱちと枝のはぜる音が迫りつつある闇の中に響いた。
 早苗月にしてはやけに冷たい風が、これから先越されることを予感しているようだった。













 back     next