第十一話・神の使徒




「うん。十分に素質はあると思いますよ。自治軍で少佐を務めたほどですし。上に立つということは、思われているよりも結構大変でしてね。ファウストがここを勝手に出て行ってからというもの、全く……」

 素質があるといわれて安心した一方で、那智はただファウストの文句を誰かに言いたかっただけのようにも思える。
 この人が、今の聖教会のトップというのも、少し怖いものがあると思った。聖教会を勝手に出て行ったファウストもどうかしているというか、何と言うか。正直、聖教会は変人の集まりかと思ってしまった。

「あの?」

「あ、すまない。ついね。他の『神の使徒』も紹介しよう」

 そう言って、先程からずっと椅子に座って書類を処理している女性らしき人のほうを向く。流れるような長い金髪を紐で軽く一つにまとめている。その様は、天使を思い起こさせる。

「ラルド・ユンファーだ。[の紋章を持っている。……教皇代理司教千早那智。そろそろ仕事を始めてくれ」

 愛想笑いもせず、無表情のままそれだけを答えた。ついでとばかりに、ナチへの皮肉を呟き、再び書類の処理に取りかかる。とても美しいが、その美しさは天使の像となんら変わりない。生きていることを感じさせない美しさだ。

「一応言っておきますが、ラルドは男です」

「男!! あんなに綺麗なのに……」

 ローザリーはそういって感嘆のため息を漏らした。
 女性でもあんなに綺麗な人はそうそういないだろう。男性だからこその美しさもそれには含まれているからかもしれない。
「彼には君の師匠となってもらうつもりです。ラルドの武術のセンスはファウストの次ぐらいにいいからね」

 ローザリーは「よろしくお願いします」といってラルドに頭を下げる。ラルドは無表情でそれを一瞥すると、小さくうなずいて再びもとの作業に戻る。ローザリーはラルドがちゃんと反応してくれたのが嬉しかったのか、緊張の色は消え、笑顔になっている。少しほっとした。

「それから、君たちを案内した……」

「さっきも自己紹介したディグオニクス・リジューです。気軽にディーと呼んでください。]の紋章を持っています」

 そういって幼い顔に笑顔を浮かべる。ほほえましいフィアとローザリーは、よろしく、と言って、頭を下げた。ディーは、こちらこそ、と言って慌てて頭を下げる。

「他の『神の使徒』とは言っても、聖教会に所属しているのはフィアさんを除くと、たった四人しかいないんです」

 表情は暗く、ため息を漏らす。それもそのはず。一応、那智の気持ちも分かる。

「残りの七人は全員ウィザード協会に?」

「いや。フィアさんの兄を除くのは当然として、\と]Vの紋章を持つものはまだ見つかっていないんだ」

 つまり、聖教会に所属しているのは、ファウスト、那智、ラルド、ディー、そして正式所属予定のフィアの五人。

 対してウィザード協会に所属しているのは、X、Y、Z、]T、]Uの紋章を持つ五人。現在、聖教会とウィザード協会の力は拮抗していると言ってもよい。

「ところで、ファウストは一体どこに?」

「私も知らなくて……。気が付いたら、もういなくなってて。てっきり一緒にここへ来るものだと……」

 那智とフィアは同時に深いため息を吐く。ため息が多くなることも無理はない。
 ファウストは教皇と言う聖教会をまとめる立場であり、聖教会の象徴で、さらに『神の使徒』のTの紋章を持ちながら、逃走。よっぽど聖教会が嫌でしょうがないに違いない、としか考えられない。

「一応、こちらでも探しているのですが、失われし技術ロスと・テクノロジー の探査システムで捕らえることは難しくて……」

 そこまで言ったらもう人じゃないですよ、と那智がこぼす。
 実際にファウストにあったことのないディーは、いったいどんなにすごい人なのだろうか、と心躍らせているようだ。
フィアに言わせれば、アレはただの面倒のくさがりやで、変人で、変態であるとしか言えない。外見は四十歳のおじさんだが、内面―――行動や精神に成熟した部分など全くと言っていいぐらい見られない。ファウストにいろいろ教えてもらっていた時だって、生活面は全てフィアがこなしていたほどだ。

 そんな格好悪い人が四代目教皇ファウストだと知られたら、ディーはがっかりするだろう。

 フィアは思わず笑ってしまった。














 back     next