第七話・加速 −The Story Push Forward To Ending...−
レイリーとセシルが対峙してからもう五分が経過した。その間、両者とも剣を構えたままで微動だにしない。最初は騒がしかった周囲も今では二人の空気にのまれたかのように、ひっそりとしている。
セシルは正直あせっていた。レイリーには一分の隙もなく、こちらから動いたら一撃を入れることなく敗北すると感じて動けないでいた。
咲に動いたのはレイリーだった。覚悟を決めたように息を吸い込むと、セシルに向かって駆け出す。その勢いも込めて、レイリーは細身のレイピアをセシルの首筋に繰り出す。セシルはレイリーの剣捌きをひらりひらりとかわしながら、現状を冷静に分析していた。
レイリーの剣は細身のレイピア。一方で、セシルの剣は大剣。時がたてばたつほど、セシルの大剣の方が重たい分だけ疲労の度合いが激しく、不利になるばかりである。
(……それならば、先手必勝!)
「はッ」
短い呼気と共に大剣を左下からレイリーの頭めがけて振り上げる。大剣の一撃を細身のレイピアでは受け切れないと思ったのか、小さなバックステップで後ろにさがって避けた。そして素早く次の攻撃態勢に入る。
セシルの剣が力の剣であるならば、レイリーの剣は速さの剣。対照的な剣だ。
再び軽やかにセシルに近づいたレイリーは先程と同じくセシルの首筋に狙いを定め、素早く振るう。自身に向かってきたレイピアをセシルは力で無理やり受け流した。そのままバックステップをすると見せかけて、セシルは蹴りをレイリーの腹へ入れようとする。が、これも綺麗にかわされてしまう。
剣を交えること数合。今日まで十号を超えて剣を交わした相手はセシルにはいなかった。だからこそ、そこに過信が生まれていた。自分の剣に敵う者はいないのだと。しかし今、レイリーと剣を交えることに焦燥がうまれている。自分と全く違うタイプの剣を使い、自分よりも強いかもしれない者と剣を交えることになると思わなかったための驚きがうまれている。
同時にわくわくする気持ちが湧き上がる。あの時から復讐という目的のためだけに生き、人間を殺してきたというのに、戦いそのものに興奮する自分がいるなんて、どうかしている。
レイリーと剣を交えたことでうまれた気持ちを消して、今はただ目の前の敵を倒すことに集中するために、軽く息を吐く。
「はぁッ!」
再び短い呼気と共に渾身の力を振り絞って、何度もセシルの体験を受けたレイピアの一転を狙う。速さや技術で敵わないのであれば、大剣に対してレイピアという特性を生かして、レイリー自身ではなく細身の剣の方が倒しやすい。
実際、がきん、と音がしたと思うと、レイピアの刃はくるくると宙を飛び、壁にぶつかって床に落ちた。レイリーの手の中に残ったのはレイピアの柄だけだった。
セシルはその隙を逃しはしなかった。容赦なく剣を振るい攻撃を続け、レイリーは苦虫を噛み潰したような顔をしながらもひたすら避け続けた。セシルは止めとばかりにだぶだぶの袖の内側でナイフを掴み取り、投げる。そのナイフは正確にレイリーの体の中心を狙っていた。逃げられるはずなどない。
レイリーは唯一の武器であるレイピアの柄を飛んできたナイフに向かって投げる。かん、と高い音がしてナイフが弾き飛ばされたが、同時にレイリーの武器はなくなった。そんな状況に追い込まれたというのに、さっきまでの苦虫を噛み潰したような顔から一変、レイリーは無表情であった。
セシルは右上から斜め下に大きく剣を振るう。武器となるものが完全になくなったレイリーは万事休す。ただ今までと同じようにバックステップでかわそうと右足を大きく後ろに動かそうとする。
「あ」
レイリーの動きが完全に止まる。なぜなら、彼の背後にあるのはもう壁だったからだ。
「終わりだ」
セシルは剣をレイリーの頭の横でぴたりと止めた。さらに、剣を持たない左手でホルスターから黒光りする拳銃を取り出し、レイリーの鼻先に銃口を向けた。勝利したことに対してか、それとも興奮した戦いであったことに対してか分からないが、セシルは笑みを浮かべた。
「いかがでしょうか」
セシルは剣と拳銃をレイリーに向けたまま、同じ問いかけを国王に向かって放つ。目だけを向けて国王をうかがい見ると、その顔色も表情も変わっていない。さすがに、これくらいのことでは動じないのだろうか。
「…………いいだろう。セシルをわが幼女とする。意義は一切許さん。セシル、今日からセシル・アレスティアを名乗れ。お前を第五師団第三遊撃隊隊長に命ずる」
隊長レベルの役職はもらえると踏んでいたが、まさか国王の養子にされるとは思ってはいなかった。それも臣下や妻、子供に一切の異議を禁ずることまでするとは考えていなかった。
犬に首輪をつけるレベルで枷を填めて、手駒にするつもりなのだろう。おもしろい。枷なんて引きちぎってやる。いずれ、この国も滅びるのだから。
「ありがたき幸せ……しかし義父上、私に兵法を用いる隊長は向いていません。むしろ、一兵卒として働く方が向いております。隊長ならば、ここにいるレイリー殿のほうが相応しいでしょう」
セシルは剣をおろし、拳銃をホルスターに戻すと、義父になった国王を見上げた。
「……ふむ。いいだろう。第五師団第三遊撃隊隊長はレイリー、お前だ。セシルは遊撃隊の副隊長としてレイリーを補佐してくれ」
「ありがたき、幸せ」
レイリーは慌ててその場に膝を付いたその隣で、セシルは立ったまま、微笑んでいた。
物語は加速する
新たな登場人物を含んで
終わりへと
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