第七話・再会
ヒューイのヒントであるゼノン。
ゼノンはヒューイの家から見て南にある町だ。町の近くには北にそびえ立つビバルディ山脈からソクラテス川が流れる。
戦争前は豊かな穀倉地帯で、その穀物を求め多くの商人が往来していた。しかし、オヴィディウス帝国の前線基地本部となった今は、豊かな穀倉地帯は消え、軍隊の足音が響いている。そして、多くの武器商人の往来が増えたのだ。
これらの情報は全てゼノンへの通り道にある村々で手に入れた。多少いぶかしげな目を向けられることはあったが、何の問題も起きなかった。
ヒューイの家を出て三日。とうとうアトラスは目的地ゼノンについたのだ。
ゼノンには四つの門が東西南北にある。アトラスはその中でも北門からゼノンに入った。
アトラスはただ雑踏の中を歩いた。ヒューイの言葉通りにゼノンに来たのはいいが、何のあてもない。正直、困っていた。
とりあえず、食事を摂ろうと適当な店を探す。
そんな時、突然腕をつかまれる。アトラスの腕をつかんだ人は、黙ったままずんずん歩いていく。
「あの、離して下さい!」
アトラスの声は雑踏のざわめきで消え失せてしまった。あきらめて、アトラスは溜め息を吐く。どこに連れて行かれるかわからないが、少なくとも危険な目にあることはないと思った。周囲はまだ雑踏の中。そんな中で騒ぎを起こしはしないはず。
そんなふうにして、数分が過ぎた頃、ようやっと腕を離された。アトラスは下を向き、荒い息を吐く。息が落ち着いたところで顔を上げる。
「久しぶりだな、アトラス」
開口一番にそう言った男は、髪と瞳が本物の闇のような色をしていた。服装は旅人一般の服装。
「……あなたは誰ですか?」
「……俺のことも忘れたのか?」
もしかして。もしかして、自分の過去のことをこの男は何か知っているのかもしれない。
「私の過去を、何か知っているのですか?」
男は溜め息を一つ吐いた。
「オレはトゥースと言う。 ……過去のことか……ああ、知ってる」
「なら!!」
「俺は教えられない。自分で探さなければ、何故失ったかを知ることはできないし、それでは記憶が戻った
とは言わない」
アトラスはそうねと言って溜め息を吐く。トゥースの言うとおりだった。失ったからには、何かそれなりの理由があったはずだ。それがわからなければ、ちゃんと記憶が戻ることも無いだろう。
「昼食は食ったか?」
アトラスはその問いに首を横に振る。トゥースはこっちだ、と言って手近な食堂に引っ張って行った。
「どうだ、うまいか?」
トゥースのその問いに、アトラスはこくりと頷く。アトラスは『鳥々亭』の名物『親子粥』を食べていた。その名のとおり、卵と鶏肉のおかゆだ。トゥースの皿はもう既に空になっている。
「俺からもヒントを出そう。『研究所』だよ」
そう言うと、トゥースは伝票を片手に立ち上がった。
「俺のおごりだ。じゃあな」
トゥースはそれ以上何も言わず、店を出て行った。
アトラスにしてみればトゥースを追いかけるべきだったが、トゥースの表情にそれを思いとどまった。今、トゥースに触れることはできない気がした。まるで心の扉が閉じられているかのように。
つらくて、苦しいような思いつめた様子のトゥース。
アトラスはその背中に向かって、そっと呟いた。
「ありがとう……」
その声はきっと届かなかっただろうけど、なんだかそれでいいように思えた。
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