第四話・薔薇



 赤、赤、赤。

 目に映るものは全部赤で染め上げられ、

 燃え盛る炎に放り込まれる。

 大切な人も

 大切なモノも

 そして

 一番キライなヤツも



 いつも不敵に笑っている黒髪の男

 キライでキライで

 けど、一番好きで

 相反する気持ちは素直になれなくて

 ヤツは炎にのまれて死んだ











「いや―――!!」


 フェルは自分の悲鳴で目を覚ました。冷たい汗が背中に流れる。嫌な感じだ。

 フェルはそっと溜め息を吐いて、茶色い髪をかき上げる。 その長い髪は軽いウェーブを描き、腰の辺りまである。


「嫌な夢……」


 ぎっ……っと音をたててベッドから降りる。手早く身支度をして、フェルにとって必要最低限の物を持って家を出る。―――それが、フェルの日常。

 朝の大通りは市場として賑わっている。物を売買する声。その声には、時々怒鳴り声が混ざる。

 この場所はフェルにとって欠けてしまった物がある場所。 そんな場所にいるのはつらくて苦しくて。足早にその場所を去る。

 そのまま足を遅くせずに、脇道へ脇道へと入っていく。脇道へ入って行く度に、その道は暗くて汚れたものへとなっていく。時々、物乞いなどがフェルの手や足を掴もうと手を伸ばしてくるが、フェルは風のように通り抜け、さらに奥へと進んで行く。

 突然、目の前が開ける。だがその大通りは薄暗い。そう、それは闇市場。麻薬などの違法物や盗品、そして時には人間さえもが取引される場所。

 フェルはそんな場所にある一軒の酒場に入る。もちろん、そこでも非合法な物をやり取りしている。主として博打が行われている酒場だ。


「ピュー!」


 何人かの男が口笛を吹く。フェルはそれを全く無視してカウンター席に着く。すぐにバーテンダーが近寄って来た。


「ブラッディ・ローズ」


 フェルが聞こえるかわからないような小さな声でそう呟くと、赤い液体で満たされたグラスが小さな金色のカギと共に運ばれてくる。それをのどに流し込み、銀貨三枚を置き、鍵を手に取ると、足早に立ち去った。

 フェルが去った後、


「手を出さなくて正解だったぜ、ありゃ、暗殺者みたいだな」


「そうですね」


 フェルの話題が上ったのはそれだけで、男たちは再び博打に興じ始めた。











 フェルの目の前にはおびただしい量の血と真っ赤な肉の塊。そして、むせ返るほどの強い血の匂い。それらには生きている人間の形を伺うことさえできない。

 フェルの体も血に濡れている。ただ、フェルの口は自嘲しているかのようにゆがめられている。


「バカな男。くだらないことに突っ込むから、こんなことになるのよ」


 フェルはそう呟いたが、その目は死体に向いてはいなかった。どこか遠くに思いを馳せるかのように遠くを見つめていた。


「バカね」


 次の瞬間、フェルの姿は消えていた。












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