第二十話・黎明



 長い、長い一日が終わって。

 たったこの一日の中にオヴィディウス帝が死んで、“弟”が死んで、トゥースが死んで、フリアが死んでそしてアトラスも死んだ。

 それだけではない。“弟”ルーセムの仕業であろうが、アレスティア王国、イグアルト共和国、オヴィディウス帝国下のグラエキア、そしてオヴィディウス帝国。“世界”と呼ばれる大国にある国々の首脳陣、王位継承権を持つ者の全てが死んだ。いや、殺された。

 ルーセムはおそらく前々から準備してきたのだろう。しかし、それは無駄になった。それどころか“世界”を混沌の渦に陥れた。

 もうこの世界に国という枠は存在しない。檻は存在しない。

 それだけではない。自分は何もかもを失った。帰る場所もそこで待つ人も一番大切な人も。


「何を望むと言うの。全てを失った私に」


 死人に口なし。死者は何も答えない。風化してコケが生えた三つの墓と真新しい幾つかの墓。フェルはその前に立っていた。

 本来ならば、自分も死ぬべきなのだろう。『殺人兵器』はもうこの世界に必要のないものなのだから。誰かに必要とされていないのならば、生きる意味はないのだ。


「あ」


 考えてから思い出した。かつて、偉そうに生きる意味とは何か、アトラスに語っていたことを。


『生きる意味なんて誰も知らない。あなたも私も、普通の人間も』


 そう、答えを知っているものは誰もいないのだ。

 ならば、私のすべきことは何か。アーノルドが、ソフィアが、リューイが、ヒューイが、カミュが、オヴィディウスが、ルーセムが、トゥースが、フリアが、アトラスが望み、そして託したこと。約束。


「生きること……?」


 呟いても答えてくれる人はやっぱりいなくて。

 でも。決めた。これだ。


「約束、するわ。生きて、生きて、必ず幸せになる。今度は悲しみや憎しみを消して幸せと喜びを生み出して」


 次に来るときは笑顔で話すから。そう呟こうとして舌をかんでしまった。涙がぼろぼろ次々に流れ落ちた。けれど、下を向かず前をじっと見つめる。下を向いてなどいられない。歯を食いしばって前を向かなければ。


「もう一つ、約束。約束が叶うまで絶対に泣かないから」


今だけ。少しだけ泣かせて。













 悲しみと憎しみと冷酷と残酷。それを持っていた少女はもうどこにも居ない。今ここに居るのは、一つの終わりを迎えて始まりの場所から歩き出した決して下を向かない少女。

 命が尽きるまで。

 この世界に幸せを。

 生きる喜びを。













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