エピローグ
荒野に風が吹いた。その風は裸だった地面を撫でて、遠くへと吹いていく。
その地面には何も生えていないわけではない。生えているのは一輪の白き花。一輪だけであっても、強く真っ直ぐに咲いている。
そんな場所に、突然茶色の髪がなびく。軽くウェーブがかかった長い髪。
その持ち主はこの場所と不似合いな女性だった。それだけであれば、近辺の村の女性だと思うだろう。
ただ、女性の両手には大きな白い花束が抱えられていた。そして纏う衣は黒―――喪服の色だ。
この場所は、もう荒野ではなかった。墓石が整然と並ぶ神聖な墓地。そう、死者が眠る場所。そして大切な人たちが眠る場所。
女性の顔に憎しみも悲しみも冷酷さも残酷さも存在しない。前だけを向いて歩いてきた女性。
その手には、かつて持っていた血に濡れた武器はない。悲しみと憎しみしか生み出さない道具はない。変わりにあるのは―――
「―――ちゃん。ここにママの大切な人がいるのよ」
「うん」
女性に手を握られた少女は神妙にうなずく。そんな自分の娘の様子に自然と笑顔が浮かぶ。
「ただいま」
おかえり、×××。
その日は天が突き抜けるぐらいそれが青くて遠くまで続いていた。世界は確かに光に満ちていた。
再び赤い蝶が舞う。
その時はやがてやって来るだろう。
再び繰り返されるだろう。
憎しみと悲しみ俊の歴史が。
歴史は繰り返されるものだから。
ならば、それまでの間は眠っていて。
赤い蝶よ。
赤い記憶よ。
私が生きている間は無のままでいて。
Fin.
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