第三話 実行




  その後の授業が、あっという間に終わった気がした。とうとう、お待ちかねの四時間目―――そう、体育の授業だ。

 授業が始まって、みんなが準備体操をし始める。それが終わると、今度は二人一組でやる馬飛びとストレッチ。普段は一つのグループだけ三人一組でやるのだが、今日は由未が一人ぽつんと残される。


「鈴木さん、依音さん。そこに、藍莉さんを入れて三人でやりなさい」


 先生の声が体育館の中に響く。私はともかく、あづみが由未をターゲットに決定したのだ。由未にとっては、地雷を踏まれたといってもいい。


 「身長が合いません」


 そうはきはきと―――見方によってはとげとげしく、あづみが言った。私は、最近真衣が気に食わなかったので、真衣たちのグループに話を振る。


「真衣さんの所なんてどうですか。身長も合ってるし」


 先生がすぐに真衣に聞くが、もちろん断られる。当然だ。


 結局、由未は一人でストレッチをやることになった。馬飛びは無しで。先生と組むということさえもしなかった。おそらく、ゲームの雰囲気というものが先生に伝わったからだろう。

 攻撃派の人たちは心の中で笑っていた。状況に流されるままになっている由未を眺めながら。











 体育の授業が終わり、昼休みになった。私はあづみと弁当をつつきながら、いつもの会話を始める。


「ねぇ、亜華璃。明日の予定決めようよ」


 今度は私だけに天使の笑みを向けながら、あづみが言った。それがさも、私の心をあづみに向けている理由であるかのように。


「うん、そうだね。朝は今日と同じことにプラス椅子に絵の具。 体育着をみんなに踏ませて、本人にも強要する。教科書とかに悪口を書いたり、切り刻む。 放課後に呼び出してボコす。そのまま体育倉庫かなんかに閉じ込める。 まぁ、一時間経ったら出してあげても良いよね。こんなんでどう? ……ん、真衣。何か用あるの?」


 私はニコッと営業スマイルを真衣に向けながら言った。さっきから真衣が、私のことをにらんで言った。

さっきから真衣が私のことをにらんでいたのだ。向こうも私のことが気に食わないらしい。

あづみの前では何も言って来ないが、昨日の帰りも私の悪口を言いながら帰っていたと聞いた。

 私は由未の次のターゲットは真衣が良いなと思っていた。もともと、真衣は『駒』の一人だったのだ。

けれど、うまくあづみに取り入ったことと、いつもの気まぐれで、あづみの取り巻きに格上げになった。

でも、少しでも気に食わないところがあれば、すぐに格下げされていじめのターゲットにされるのは明白だった。

私は、ちょっとあづみの背中を押すだけでいい。たったそれだけで事態は私が望んでいる方向へと走り出す。


「……いいえ、なんでもないです」


 どこと無く動揺を隠しながら、真衣は言った。私は本当にウザかった。だから、真衣のことをあづみに言って次のターゲットにさせようと思った。たったそれだけのこと、だ。


「ねぇ、あづみ。あづみは真衣のこと、どう思っているの? 元駒のくせに少し出しゃばりすぎだと思わない?」


 私は少し怒っているかのように言った。最近は本当にむかつくことが多すぎる、ほんとにイライラするとでも思っているかのように。


「うん。それは私も思ってるのよね。それに由未をいじめてもあまり楽しくないし。

こんなガキみたいなこと……って感じで、心の中で笑ってそうな気がしてね。真衣が出してくるいじめの案もつまらないもの多すぎ。

私はもっと過激なのがいいのよ。全然私の事わかって無いじゃん。せっかく駒から格上げしてあげたのに」


 うんざりとした顔であづみは言った。私は真衣の方を見た。もうこちらのほうを向いてはいない。 まさか、あづみに気に入られなくなったとは思っていないだろう。私はクス、と笑ってあづみにこう言った。


「由未へのいじめをやめて、ターゲットを真衣に変えない? あと、由未を駒から格上げしない? それがわかったときの真衣の悔しがる顔が見物かもしれないよ?どう?」


 私は早速、自分の考えていたことをあづみに提案してみた。あとはあづみ次第。しかし私は確信していた。あづみがこの提案に乗ることを。


「それいいね。早速やろうよ、明日から。さっき言っていたのを今度は真衣に目標を変えて。 あっ、でも今日、由未をボコすっていってたよね。どうする?」


 あづみは少し困ったような顔をして言った。私は考え込むフリをして言った。


「私が由未についているよ。それなら大丈夫でしょ?恵に指令を出す?」


 私はくすくす笑いながら言った。そして、真衣の方を見た。真衣もこちらを見ている。 私は真衣にまたもや営業スマイルを見せて、再びあづみの方に向き直る。

 もちろん、心の中では勝ち誇った笑み。


「うん、そうして。ターゲットを真衣へ変更。真衣の椅子に茶色の絵の具を塗ること。

それから、上履きとロッカーの物を隠すことと、靴箱と机の中に画鋲の設置。これは必ず真衣が来る前にやっておくこと。

真衣の体育着を廊下に出しておく。登校してきた者は全員それを踏むこと。教科書に落書き、切り刻むのも可。

放課後に呼び出してボコす。その後、体育倉庫に一時間ほど閉じ込める。以上だよ」


 あづみは楽しそうに笑った。

 私も笑った。ばかばかしいまるで狐と狸の化かしあいのような会話を反芻して。














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