第二話 ゲームスタート
そして次の日。
熱いくらいまぶしい太陽が照らしている学校の中で、暗いゲームが幕を開いた。
攻撃派の人は私とあづみを含め、ほぼ全員が教室に来ていた。時刻はまだ八時前だ。
由未が学校に来る時間は、クラスの中でもかなり早い方だ。私も早く来ているが、たいてい由未がいる。
由未がいつも来る時間はもうすぐだ。話し声がやかましいほど響いていた教室も、だんだん静かになっていく。
そこに突然、ケータイの着信メロディとがたがたといううるさいバイブ音が響く。
あづみはクスッと笑うと、ケータイを手に取った。
「由未の奴来たの?」
「はい。何にも入っていない靴箱を開けたまま、昇降口でたたずんでます」
由未の見張り役である『駒』の双葉絵美は、笑いながらそうあづみに報告していた。
「さっきも、後から来たクラスメイトに話しかけようとしていたんですけど、全員シカトを通しています。それに戸惑っているのか、ずっとそこに立っていますよ」
「ああ、やっぱり?クスクス。ほんと笑えるよね。そのまま昇降口に突っ立ってるなんて馬鹿だよ。そーね、そろそろ引き上げて。あの子に感づかれるのもツマラナイしね。まぁ、もう気づいているかもしれないけどね」
じゃあね、と言ってあづみはケータイを切った。あづみはまたもや悪魔の笑みを浮かべていた。けれど、目が笑っていない。こういうときのあづみは機嫌が悪い。
「あづみさん。絵美の奴、何て言っていました?」
真衣は今にも笑い出しそうな顔で、あづみに聞いてきた。媚びるような行動と笑顔。ただでさえ、あづみはこういったことが嫌いなのに、今はまさに地雷を踏んだと言えるだろう。
「まだ昇降口で立ったままだって。まったく馬鹿みたい。ほんと面白みがない。『駒』として使えないからターゲットにしたっていうのに。ターゲットならターゲットらしく、もっと探し回って泣けばいいのにさ。……つまんないわ」
あづみは少し顔をしかめていった。あづみは決して機嫌が悪いのを表情に出さない。出すとしても今のように軽く。私は長年の付き合いだ。大体、テンションの浮き沈みはわかる。
「まぁまぁ、あづみさん。まだまだこれからです。今日始まったばかりなんですから。明日の計画も立てておかないといけませんし。例えば、椅子の上に由未の絵の具でも塗っておきませんか?そのときの顔とか見物かもしれませんよ?ただ、この場合は朝のうちに準備しておかなければいけませんが」
あづみの取り巻きの一人である真辺未香が言った。未香はいつも必ず敬語で話す。それは真面目な性格からくるのだろう。
「それいいね。でも、もっと過激なのがいいな。心の奥まで徹底的に傷つくようなね。亜華璃、何かない?」
「とりあえず始まったばっかだから、体育着をみんなに踏ませて、由未にも踏ませたり、放課後に呼び出してぼこしたり、かな。
そういうのやりたいな。楽しそう」
私はクスクスと笑って言った。
そのときちょうどタイミング悪く由未が教室に入ってきた。やはり、自分の上履きは履いておらず、代わりに来客用のスリッパを履いていた。
彼女が教室に入ってきたとたん、教室は静かになった。
由未が自分の机のほうへ向かい、椅子に座った。そして、鞄から出した教科書やノートなどを机の中へ入れようとした。すると……
「いたっ!」
由未は思わず手を引っ込めて、そう叫んだ。そのとたん、クスクス笑いが始まった。
由未の顔が蒼白になっていくのが、よくわかる。それでも、何とか動いて机の中の画鋲を片付けた。そんな中でもくすくす笑いは止まらない。
ちょうどそれが終わったとき、担任の佐井籐先生がチャイムと共に教室に入ってきた。あづみたちも慌てて席に着く。
この先生は頭がかなり薄く、バーコードで、この学校の中でも一、二を競う嫌われ者・キモイ事で有名だった。
「……あー欠席はゼロだな。藍莉さんの上履きを知らないか。
知っている奴は後で職員室に来い。これで、ホームルームを終わる」
あっけなくホームルームが終わる。佐井籐先生が出て行くと、途端に教室の中がうるさくなった。その声の多くは由未の悪口で、そんな中を由未は体を縮こませてうつむいている様に見えた。
「あづみさん、今日、由未を呼び出してボコしませんか?」
また、真衣が口を挟んだ。どうやら、あづみに取り入って、私のポストを奪ってやろうと企んでいるらしい。あづみに取り入っても、逆に嫌われるだけとは知らずに。
「今日は彼氏とデートだから無理だよ。私は不参加だけど、やってもいいよ。でも、やるなら顔は絶対殴るなよ。面倒なことになるから、腹だけにしな。亜華璃はどうするの?」
あづみは今日だけで、いったい何回目だろうという、残虐な笑みを浮かべながら亜華璃に尋ねた。
「めんどー。あいつの痛がってる顔を見たいけど、テスト近いし勉強しなきゃね。私、五位よりも下になる気はないから。だから今日はパス〜。あづみも来ないって言ってるしね」
私は面倒臭そうな顔をしてそう答えた。
「お二人が来ないなんて残念です。でも、実行しますから」
真衣は顔をしかめながら言った。私はそれが本心には聞こえなかった。少なくとも、私に対しては。
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