第一話 最初のターゲット



「ねぇ、次は誰をターゲットにする?」


 ざわめく朝の教室。太陽が燦燦と輝く中、私たちにとって日常的な会話を繰り広げていた。陰湿で闇に属するような会話を。人間として狂った会話を。


「藍莉由未にしない? なんか最近、あいつがウザくてムカツクんだよね」


 そう言ったのは依音あづみ。このクラスの中心的存在で、イジメのリーダー的存在である。


「ねぇねぇ、あづみさん、亜華璃さん。由未をどうやっていじめます?」


 この子は取り巻きの一人である榊原真衣。最近あづみに気に入られているようだ。明らかな作り笑顔を浮かべて馬鹿みたい。


「そーねー、どうしようか。……まずはシカトだよね。上履きやロッカーに入っているものを隠すのも同時進行してさ」


 私は鈴木亜華璃。あづみとは小学校一年生からの親友だ。とはいっても、私は全く親友だとは思っていない。ただの古い知り合い、と思いたい。


「うん、いいわね、亜華璃。その後、画鋲を由未の机の中に入れておこう。そうそう、体育の授業でペア組むよね。私たちのクラスって、ちょうど奇数じゃない?だからあいつ余るよね。 体育の先生が何か言ってくるかもしれないけれど、そうしたら身長が合わないとか言えばいい。これは絶対やるからね」


 あづみはそう言い終わると悪魔の笑みを浮かべた。天使というよりは悪魔という形容が相応しい、残虐な笑みだ。このクラスではあづみが女王である。クラスの一番上に立つ人間である。逆らったら、逆らった奴がいじめられる。だから、誰も絶対に逆らえない。


「いいわね。ちょうど、明日体育があるよ。『駒』を使う? それとも私たちが動く?」


 私もふふふと、あづみのような悪魔の笑みを浮かべながらあづみに尋ねる。もちろん、作り笑い。こんな子供じみて馬鹿なことを本気で楽しいとは思えない。


「もちろん『駒』使うわ。こんなこと、私たちが動くまでもないことだし」


 このクラスでは大まかに二つのグループに分かれている。まず一つは保身派。こいつらは何よりも自分が大事。だから誰も逆らわない。パシリのような奴ら。むしろ、操り人形。将棋で言うと、歩兵。使い捨ての『駒』だからあづみが気に食わなかったり、あづみの機嫌が悪かったりすると、すぐにイジメのターゲットになる。

 もう一つのグループは、女王あづみが率いる攻撃は。イジメの企画・進行をしている。まるで何かのイベントのようだが、私たちにとってそれは暇をつぶすためのゲームに過ぎない。このグループは簡単に言うとあづみの取り巻き。私はあづみの相談役。まぁ、あづみと対等の位置にいると言っても、良いかも知れない。

 このクラスでは、あづみが独裁者だった。

 この学校は女子校である。それも幼等部から大学院まで存在するほどの大きなものだ。だからと言って、箱入りのお嬢様が大量に生産されるわけではない。女だけだから、反って恐ろしい世界が形成されるのだ。

私たち攻撃派は、外見は一般で言われる不良である。私はしていないが、髪を染めるのは当たり前、化粧をするのも当たり前。ピアスをしている人も、多い。けれど、勉強に関してはいつもトップグループだった。

もちろん、それだけではないだろうが、大人たちは何も言ってこない。いや、言えない。それほど、完璧だった。こうして、このあづみ王国はできていた。たとえそれが砂上の城の様に脆弱なものであっても。


「ふふ。それじゃぁ、真衣。『駒』の恵に言って。藍莉由未を除く駒に、伝えろって。明日からゲームスタート。今回のターゲットは藍莉由未。由未を助けた者、ゲームの進行を邪魔した者、または私の命令を聞かなかった者には制裁が下る。期限は、あいつの……そう、入賞したと思われる、絵を強奪。破壊すること。証拠は残すなよ。以上」


 再び、あづみは残虐な笑みを浮かべた。

 ちなみに恵―――戸部恵は『駒』の中の中心者である。とは言っても、攻撃派にしてみれば、利用できる奴ぐらいでしかないのだ。


「亜華璃、『駒』に命令を下してくれる?明日朝早く来た者は由未の上履き及び体育着を除いたロッカーに入っている物を隠すこと。また、由未が教室に来る前に、机の中に画鋲を設置しておくこと。お願いね、亜華璃」


 あづみは先程とは正反対の天使の様な笑顔で私に頼んだ。なぜか、私だけにこの笑顔をよく見せる。この天使の様な綺麗な笑顔が攻撃派の人々を、いや、大勢の人々を惹きつけるのだ。













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