第七話・孤独じゃない
「海!」
そこにいたのは、あたしの同級生の紅林海だった。今日の海はジーパンにパーカー。そんな格好にショートヘアーが良く似合っている。男の子にも見えるが、正真正銘、女の子である。
「あ〜、やっぱり家にいた。千希に聞いたんだよ。三限サボってそのまま戻ってこなくなっちゃったって。―――入ってもいい?」
あたしはコクコクと頷いた。扉を大きく開いて、海を招き入れる。あたしは一人でなくなったことに少しほっとした。
「おじゃましますぅ〜」
海は勝手知ったるなんたらやら――という感じで廊下を歩いて行く。
「貴京の部屋? それともリビング?」
「あたしの部屋に行って待ってて。マンガ読むでもゲームするでもしてて。お菓子持って後から行くから」
海が二階への階段を上がっていくのを見てから、リビングに行く。リビングの時計を見ると、針はもう十二時を回っていた。
「……もうお昼か」
あたしはキッチンにある冷蔵庫を開けた。中を少し物色してから食材を取り出す。 手馴れた手つきで食材を刻み、いためて卵でくるむ。ジューといい音を立てる。 そうして出来たのは二つのオムライス。そこから、暖かい湯気が立ち上っている。そのオムライスの上にはケチャップで書かれた星の模様。
さらに、冷蔵庫から海のためのジュースと、千草先輩のところで買ったケーキを出す。そして自分用のミルクコーヒーを作るとそれらをお盆の上にのせた。
あたしは落とさないように注意して、二階にある自室へと向かう。
パタパタパタ、
「海! 手がふさがっているから開けて」
あたしのその声に海の「わかった」という返事が部屋の中から聞こえた。
「うわぁ! 美味しそう! お昼まだ食べてなくてねぇ。ラッキー!」
「はいはい、いいから通してよ」
海は慌てて体を避ける。あたしの部屋は結構広い。ベッドに机、パソコンとテレビも置いてある。そして、極めつけは本棚。様々な種類の本が置いてある。けれど、女の子っぽいものも、写真などの類のものは全くない。
そのあたしの部屋の中で、テレビが煌々と光りを放っていた。そのテレビには、コードでゲームの本体とつながっている。どうやら、海はゲームをやっていたらしい。
海は何も言われないうちに、さっさと小さなテーブルを出した。あたしはその上にお盆を置く。
「いただきますぅ〜……うーん! 美味しい! 貴京ってさ料理の天才だよね。僕、こんなの作れないもん」
海はちょっと行儀悪く、口をもぐもぐと動かしながら言った。そんなふうに、美味しそうに食べている姿はどことなく小動物を感じさせる。
「はいはい、どうもありがとう。両親が仕事に出てるんだから、こんぐらいお手の物よ。いつものことだしね。……ところで、何のゲームやってたの? また格ゲー?」
「いんや。RPGだけど?」
オムライスを食べ終わった海はケーキとジュースに手を伸ばした。
「……ゲームはいいよね。仲間が必ずいるし、行くべき道も決まってる。そして、死ぬことがない。必ずハッピーエンドになるもの。幸せになれるんだもの」
海は食べ物に伸ばしていた手を止めた。
「貴京、僕は千希みたいなことは絶対にしない。貴京を羨ましいって思わないもの。僕は僕、千希は千希、貴京は貴京だもん。それと、貴京は一人じゃない。ううん、一人なんかにしない。置いていかないさ……兄貴みたいにはね」
海は苦い顔をしていった。特に最後の所で。それに気が付いたあたしもうつむいた。
「ところでさ、このケーキどこで買ったのさ? すごい美味しいよ」
そう言いながら海がつついていたのはピーチタルト。いつの間にかというか、食べるのが早い。手をつけるのも早い。
「……中学の時の千希かずきのモトカレの友達のお店……」
あたしはそう言って目の前にあるケーキから目をそらした。自分の分も持ってきてあるけれど、今は食べる気分になれない。
「……そうか。あの人に会ったんだね。……そろそろ貴京に話さなければいけないな。いつまでも隠し通せるものでもないしな」
あたしはその言葉にうつむいていた顔を上げた。
―――話さなければいけないこと?あたしに隠していたこと?
あたしの顔にはそんな疑問がありありと浮かんでいたのだろうか。海はふっと笑ってあたしを見た。
「一つ昔話でもしようか……。信じられないことかもしれないけれどね」
海は大きく息を吸い込んだ。
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