「貴京、この後の授業はどうするの?」
「うーん、さぼろぅかなぁ―。ねぇ、
「次の授業は地理よ。
はっきり言ってお断わりだ。みんなは千希かずきの本性を知らないだけだ。あたしも昔は
あれは中学一年生のときの夏――
「
ごく普通にあたしは聞いた。年頃の女の子(?)なら、誰でもするような話題。あたしはその頃、まだ千希のもう一つの顔について知らなかった。
無条件に千希の事を信頼していた。ただ、小さい頃から仲が良いということだけで。最も警戒すべき人物は身近にいたことに気づかずに。その小さな行動が、自分に悲しみをもたらしてしまうことを。
あたしはもちろん、何の疑いも持たずに、その頃の好きな人について千希かずきに言っていた。千希があたしに言うことは一度も無かったが。そのときは、それを後悔するはめになるなんて思ってもいなかった。
その人は、千希の部活(吹奏楽)の先輩で、その先輩はトロンボーンをやっていた。もちろん千希も。そこの吹奏楽部のレベルはなかなか高く、金賞を取ってくるくらいだった。
千希の力だけでは決してないけど。それどころか下手だった。足をひっぱってるほうだ。帰りに、吹奏楽部の部室を覗くと千希はよく、同じパートの女の先輩に怒られていた。
ともかく、練習もハードだが、夏休みになると幾分か楽になる。夏休みになると、千希に誘われて、あたしと千希とあたしの好きな人とその人の友人の四人でよく遊んだ。
映画を見に行ったり、遊園地に行ったり、あたしの好きな人の家で遊んだこともあった。今思うと受験生なのに、よく遊んでいるよなぁと思える。あたしの時はそんな余裕なんてなかったのに。
そんな楽しい夏休みが終わると、嫌な学校が始まった。そしてある噂が流れた。あたしはよく知らなくて、千希の次に仲の良い子に聞いてみた。今はもうすでにあたしとは違う高校に行っていて、会ってはいない子だが。
「えっ、貴京ちゃん知らないの? てっきり知っているかと思ったけど。結構有名だからね、あの二人。外見からして目立つもん。外見だけだとお似合いだよ。でさ、昨日さ、大学のお祭りがあったでしょ? その最後の花火の時に、千希と○○先輩(あたしはイマイチ覚えていない、あたしの好きだった人の名前)が一緒にいたんだって。しかも、手を握っていたってウワサ」
あたしはその子の話に呆然とした。
「ただのウワサだよね?」
「う……ん、まぁね。わたしも聞いた話だから」
「やっぱり。千希ちゃんにはもっともっとかっこいい人がお似合いだと思うもん。○○先輩じゃダメだよ。つりあわないじゃない」
そのとき、あたしは特に気に止めていなかった。いや、気に止めていないように振舞っていた。心のどこか片隅で、傷つきながら。
そして真実を知ったのは次の日の放課後だった。
あたしたちはいつも通りに団地の階段に座ってお喋りしていた。あたしたちは公立の中学校に行っていたので。家は目と鼻の先。さっさと帰ってしまうのはもったいない。
「あのね、貴京ちゃん。わたし、告白されたの」
そう言った千希の顔は紅潮していた。幸せそうな微笑を浮べていた。驚きと恐怖。もし、○○先輩だったら……。
「……もしかして、○○先輩?」
そう言ったあたしの言葉に千希は頷いた。あたしは涙も怒りも顔に出さずに、つくり笑顔を浮べた。
「そうよかったね」
その後の毎日は、あたしは作り笑顔を浮べて過ごした。あたしは千希との絆を壊したくなかった。あたしが我慢すれば、丸く収まることであったから。
事態が変化したのは一ヵ月後だった。あたしはそれを全て見ていた。見たくなかった。あんな光景。そのとき、何故千希の家に行こうとしていたかは覚えていない。
千希の家は由緒正しい名家で、家も大きい。近所では有名だ。そんな家の門の前で、大声が聞こえた。
「千希! 話を聞いてくれ! お願いだ! もう一度話を聞いてくれないか?」
そこにはあたしか好きだった先輩が惨めな姿でいた。その頃には、あたしはそんな奴なんてもうどうでも良かった。心の底からそう思っていたかは定かではないが。
「あなたと話すことなんかないわ」
そう言って出ていたのは千希だった。いつもの千希と違って冷徹な感じがした。氷のように冷たくて、刃物のように鋭い感じ。
千希はそのまま家の中へ入っていこうとした。その手を男がつかんだ。
「じゃぁ、何故……」
「あなたを利用するために決まっているわ。貴京をいじめるためにちょうどいい餌だったのよ。あの子は今ごろ、傷ついて泣いているでしょうね。心の中でね」
千希はふふふっと笑うと、男の手を振り払って家の中へ戻っていった。
あたしは一瞬、そこから動けなかった。
また、裏切られた。
小学生の時に、あたしはいじめにあった。いじめてきたのは仲の良い友達で、つい昨日まで、親友だと思えるほどだったのに。
あたしが、その仲のよい友達の友達のものを盗んだといわれた。それを見た人もいるといわれた。濡れ衣だった。あたしはもちろんそんなことしていない。けれど、誰も信じてくれなかった。クラスメイトも担任の先生もその子も。
ただ一人、千希だけがあたしの味方だった。でも、今になって思うと、それさえもうわべの物だったのかも知れない。
そして今度も。
また、仲の良い友達から。一番信頼していたはずの千希かずきから。
そうやってあたしは変わっていった。外見と内面の両方が。千希と同じ普通であることに苦痛を覚えることが多くなった。そうしてあたしは、一般人からいわゆる不良へとなっていった。
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