第二話・委員長


ごっ☆

 何か鈍い音がした。あたしは慌ててタバコをしまった。

バタン、

 大きな音がして屋上の扉が開かれた。そこにいたのは――

「なっ、なっ、なっ、なっ」

「な?」

「なっ、中野さん!あっ、あっ、あなた、今、何を……」

「ん?授業のサボりだけど。それより、委員長、深呼吸、深呼吸」

 あたしは突然とび出してきた人の言葉をさえぎって言った。
 突然飛び出してきた人はあたしと同じクラスの風紀委員長―――園村知里そのむらちさとサンだ。通称委員長。高一で委員長なのは他にやりたい人がいなくて、委員長が立候補したせいである。かなり変わっている。
 委員長の外見はあたしとは正反対だ。あたしは茶髪に化粧、第二ボタンまで開けた白いシャツ。適当に結んだネクタイ。だぼだぼの黒のセーター。そして、プリーツスカートをぎりぎりまで折った超ミニスカ。黒のハイソックス。  この格好にルーズソックスをはいている奴がいるけれど、あれって、足が太く見えるだけだと思うな。それに、夏は熱くないのかな。冬はジャージの長ズボンを穿いてるのとかいるし。はっきり言ってダサい。
   対して、委員長はメガネに三つ編み。前髪の長さまで、きっちりそろっている。 もちろん、化粧も髪を染めることもしていない。ネクタイもきっちりしめ(もちろんボタンはあけていない)、スカートは膝丈。指定のブレザーもきっちり着用している。典型的な優等生の格好。
 さらに委員長は地球外生命体研究部―――略称EORという怪しげな部活の創始者で、部員の一名だ(と言っても、今のところ委員長しか部員はいない)。確か、活動内容は地球外に生息する生物の調査・捕獲・研究だとか。どこかオタクっぽい。やはり、名称の通り怪しげな部活だ。
 こんな部活を認める学校も、学校だが、その部活をしたい人が一人以上いれば成立する、という自由奔放的な主義でやっているのである。おかけで、この学校には様々な部活がある。そのせいで生徒会が無駄な部活をつぶしにかけている、というのはまた別の話。
 ともかく、あたしとは別の意味で委員長も普通ではない存在だ。
 はぁ、はぁと荒い息を吐いていた委員長が突然、むくと起き上がった。そして腰に手を当てて右の手の人差し指であたしをさしていった。

「中野さん、さっきあなた、タバコを吸っていたでしょう?ほら、ここに消すことの出来ない証拠が……あれ?」

 委員長が指をさしたところにはただの屋上の灰色のコンクリートの床が広がるだけだった。委員長が言う証拠は何も無い。タバコの灰も全て、冬の冷たい風に吹き飛ばされて消えている。タバコの吸殻はあたしの携帯灰皿の中。一目見て、タバコを吸っているような証拠になるものは何もなかった。そのため、持物検査を行う口実もない。
 委員長はそのまま石になった。口は開けたままだ。

「委員長?だいじょーぶぅ?」

 あたしは委員長の顔の前で手を振ってあげた。委員長の目は愕然と開かれている。こういう反応しかしない委員長が不思議だ。
 委員長ははっと気がつくと、さっきの腰に手を当てて右手の人差し指をビシッ!!とするポーズになってこう言った。

「中野貴京ききょうさん! 覚えてらっしゃい!」

 そんな捨てゼリフを残して後者の中へと戻っていった。どこからか不気味な高笑いが聞こえた。今時、覚えてらっしゃいって……
 しかも、まだ授業は終わっていない時間だ。まさか、わざわざこんなことをするために、委員長は授業をサボったのだろうか。ちょっと頭痛がした。

「いくら、普通じゃないのがよくても、委員長みたいなのはなぁ……しかも、なんか目ぇつけられちゃってるし……」

 あたしはふぅ――とため息をついて空を見上げた。少し水色がかった青い空に真っ白な雲が流れている。あいかわらず、普通の空だ。委員長みたいなことを考えているわけではないが、確かに変化が無いのは退屈だ。
 あたしは自分の腕時計を見た。九時三十分。そろそろ一限の現国が終わる時間。次の授業は確か数学。

「それじゃぁ、ちょっと遊びに行こう」

 あたしは屋上と校舎をつなぐ扉をそっと閉めて、校舎の中に入った。今はまだ、どこのクラスも授業中で静かだ。あたしは自分の教室に向かった。

パタパタパタ、

 あたしの小走りの音が廊下に響いた。あたしは教室までの道のりの途中、通らなければならない職員室の前を足音を立てずに通り過ぎようとした。そのときちょっと職員室の中を覗き込む。
 若菜わかな先生は自分の席で、次の授業の用意らしきことをしていた。ノートにペンを走らせていた。やっぱりそんな姿もかっこいい。
 あたしはそれを確認して足早にその場を通り抜けた。もちろん、足音を立てずに。そんなあたしの顔には苦笑が浮かんでいた。











 back          next