月だけが知る真実
「で、話って何?」
月灯りが煌々と照らす、森がひらけた場所。通常であれば、こんな夜更けにこんな場所に人はいない。だがその日は例外であった。
銀色の長い髪を持つ二十歳残後の女性―――ソフィアは、この場所に呼び出した相手に毒を吐く。
「ひどいな。そんな風に言わなくてもいいじゃないか」
ひどいことを言われた、と言いながらも、ニコニコしながら答えるのは黒髪の男性―――アーノルドである。
事の始まりは、ソフィアが研修のために三年前から毎年半年の間、アーノルドの父ヒューイの元を訪れていたことだ。
当然二人は次第に惹かれあい、めでたくカップルが誕生した。
ただ、二人の間には問題があった。
一つは、ソフィアの研修期間が明日で終了することだ。通常であれば、あと二、三年はかかる研修をたった三年で終わらせたソフィアの能力にもよるのだが。
もう一つは二人の付き合いにヒューイが反対していることだ。何故反対しているかは分からないが……。
「駆け落ちしよう」
「…………は?」
ソフィアが唖然とした。それもそのはず。いつもどちらかというと、消極的であるアーノルドが、このような行動をするとは思っていなかったからだ。
「だから……駆け落ちしよう」
アーノルドの顔から笑顔が消え、真剣な表情になる。その様子にソフィアはため息をついた。
「馬鹿じゃないの。ヒューイさんを一人にして行くわけにはいかないでしょ。……いつ殺されてもおかしくないじゃない。ここは戦場の近くなのよ!?」
「君だって死ぬかもしれない」
「私は……私は、一介の研究者に過ぎない。それに……」
ソフィアがその言葉の先を続けることはなかった。アーノルドにはソフィアの言わんとしていることが、痛いほどよく分かった。
ソフィアの両親はソフィアが幼い頃にいずれも戦死している。父親は兵士として戦場で、母親は巻き込まれて死んだ。ソフィアだけは、母親の手によって物陰に隠されていたので助かった。
俯いたまま黙っているソフィアの表情は、アーノルドには分からなかった。
「……わかったよ」
「うん……それじゃ、おやすみ」
ソフィアはそう言って、明日旅立つ家へと帰った。
アーノルドは闇の中で淡々と光る月を見上げた。
一刻ほど経っただろうか。
アーノルドは意気消沈したかのように俯いていた。
「風邪をひくぞ、アーノルド」
「父さん……」
アーノルドはヒューイの顔を見上げた。その表情は逆光で、分からない。
「私が……私が二人の付き合いに反対したのは、ソフィアのことが心配だったからなんだ」
「ソフィアを?」
「お前も知っての通り、つらい過去を持っている子だからな。その点……お前は合格だよ」
「……え?」
アーノルドはヒューイを見上げたまま、呆然としていた。
「お前は感動だ。どこでも好きなところへ行け」
ヒューイはそれだけ言うと、アーノルドに背を向けてその場を去って行った。
「ありがとう……父さん」
そして、アーノルドも立ち上がり、家へと帰って行った。
誰もいなくなったその場所。そこにあるのは月の灯だけ。
今となっては、そのことを知るのは月だけだった。
The end.