緋に染まる雪



 空は分厚い白い雲に覆われ、地は白い雪に覆われている。宙にはやはり、白い雪が羽のように舞っている。
 あたり一面白銀の世界。
 ケガレ無き白の世界はどこかあの子を思い出させる。そう、アトラス。

「大嫌い」

 正直な話、名前を呼ぶのも嫌だ。
 だから、汚したくなる。
 ぱっと飛び散る鮮やかな緋の色で雪を朱の色に染め上げる。まるで、あのこの存在を消すかのように。消えることを願って。
 はじまりは、まだあの子が幼い頃。








「フェル。この子がアトラスよ。アトラス、はじめましては?」

 そう言う彼女は私の母といえるソフィアだ。アトラスの母ともいえる。

「……はじめまして」

 アトラスはソフィアの後ろから顔を出してそう言った。
 皮肉にも純粋で可愛いと思ってしまった。その時は。

「よろしくね。アトラスちゃん」
 まだ知らなかった。まだわかっていなかった。アトラスの本質というものを。








 時は流れ。アトラスと会ってから七年が経った。
 そう、あの日も雪が降っていた。
 休息をとるのにとても良い静かな村。木々の隙間から零れ落ちる日の光は、疲れた体をとても癒してくれる。特に、冬の晴れた朝はとても気持ちがいい。
 その日も休暇をとっていつもの村で過ごそうと思っていた。
 けれど、到着した村は静かさの満ちる森も、心のあたたかい人々も失われている過程にあった。

「……うそ……」

 村は炎に包まれていた。

「うそ!」

 轟々と炎はうねり、次々と家屋を飲み込み、書きつくしていく。炎は物を飲み込むたびに、ますます勢いを増していく。その勢いはとどまるところを知らない。
 また、大地には倒れ付した村の人々。尋常でない血の量が、そこに倒れた人々が確実に事切れていることを物語っていた。

「だれがこんなこと!」

「私よ」

 その静かで冷たい声は、揺らめく炎の向こうから聞こえた。そこにいるのは雪を思わせる純白な衣装を纏った少女―――アトラスだった。

「アトラスちゃん!? どうして!!」

 フェルの叫びがアトラスを貫く。だが、アトラスはそれに全く動じた様子を見せなかった。否、動じなかった。

「幸せにしているあなたが気に食わなかったから。おなじ兵器にんぎょうなのにね」

「ふざけないで!!」

「ふざけてなんかいないわ。あなたも所詮、兵器。普通の人間として暮らすことは許されていないのだから」

 アトラスはそこで言葉を切った。
 フェルは、アトラスの言ったことがよくわかった。一度はどうすることもできないとあきらめていた。
 けれど、救いはある。

「あなたが関わった人間はこうなるの。全てね」

 フェルが何も言えないうちに、アトラスは炎の中に消えていった。








 The end.






*あとがき

 久しぶりの無の記憶です。

 中身的にはフェルがアトラスを嫌う理由の一つといったところ。

 他の理由がとても大きいんですけどね。