ヴァレンタインと陰謀とチョコレート
2月14日
今日は聖・ヴァレンタインの命日です。
この日は女性が男性にチョコレートを贈って告白してもいい日なのです。
つまり、今日はバレンタイン・デーなるものなのです。
「おはようございます♪」
わたしはいつもの聖教会の制服を着て、いつもの
書類の山の前に座ってひたすら書類を処理しているのは美しい女性のような男性―――ラルドさんはわたしの方をちらりと見ると、もとの作業を続けました。これがラルドさんのいつもの挨拶なのです。
「お、おはようございます」
ボーイ・ソプラノの声で挨拶したのはディーくんです。ディー君はわたしよりも年下なのに、朝早くから夜遅くまで仕事をしているのです。
「あの、那智さんが……」
ディーくんに呼ばれて声のする方へ書類を書き分けて進むと、そこにはよだれをたらして寝ている那智さんの姿がありました。わたしは恐る恐る那智さんに声をかけました。次の瞬間、那智さんは飛び起き、よれよれになった制服をすばやく調えると、わたしの前に両手を差し出しました。
「……なんですか?」
「だめですね、ローザは」
那智さんはチッチッチッと古臭い動作をすると、わたしに人差し指を突きつけました。わたしは一体なんだろうと思って、那智さんの指をじっと見つめました。
「今日を何の日だと思ってるんです? ヴァレンタインですよ、ヴァレンタイン! ヴァレンタインと言ったら、すべきことは決まっているでしょう。純粋なる乙女が手作りのチョコレートを男性に贈って、男性はついでに純粋の乙女をも食べふ!!」
刹那。上から(どこからだ……)飛び降りてきたフィアさんの手に持つナベによって、那智さんは床へ埋没しました。ご愁傷様、自業自得です。
なぜ、フィアさんが上から降りて(落ちて)来たのかは知りませんが……
「この変態!! 何を子供に教えてるのよ!!」
フィアさんはそう言いながら、ナベで那智さんのことを叩き続けました。那智さんの悲鳴とナベが頭にヒットする音、そしてラルドさんが無関心にペンを走らせる音だけが会議室の中に響いていました。そんな中で、ディーくんだけは目を白黒させてあたふたしていました。
「
「フィアさん、それ以上叩いたら那智さんが死にます」
「あ、ああ、そうね」
フィアさんはナベで那智さんの頭を叩く手を止めて、
傷は消えたけど、痛みは残る。ある意味、残酷なことかもしれません。
「すいませんでした(フィアはもう、純粋じゃありませんね)」
那智の小さなつぶやく声が聞こえたのか、すちゃっとフィアは手に持つ
那智さんは後ずさって、小さな声でごめんなさいとつぶやきました。
なんとなく周囲を見回すと、さっきまでいたはずのディーくんがいなくなっていました。おそらく付き合いきれないと判断したのでしょう。賢明な判断です。
「…………でも、ヴァレンタインの日に女性からチョコレートをもらうのは男性の夢じゃないですか」
「もらって何になる? 食べるのが大変なだけだが」
突然口を挟んできたラルドさんにある意味爆弾発言をされ、那智さんはうっとうめいて口ごもりました。ラルドさんはどうも、毎年ファンと称する女性たちからダンボール三箱分ものチョコレートをもらっているらしいのです。さすがと言うべきなのでしょうか。
「ヴァレンタイン・デーに女性が男性にチョコレートを贈ることなんて、所詮お菓子業界の陰謀なのよ」
そういうフィアさんの笑顔は口は笑っていても目は笑っていませんでした。 ……なんだかとても怖いです。いつものフィアさんじゃありません。
「とか言いながら、フィアもチョコレートを作っているんじゃありませんか」
「あ、それは……」
那智さんはフィアの手から
ばたん!!
大きな音を立てて、那智さんが床に倒れました。那智さんは白目をむき、口から泡を吐いています。
「……フィアさん……その、普通のチョコレートですよね?」
「ワサビ(そんなのあるのか)入りの逆ロシアン用のチョコなんだけど……」
那智さんはそれから三日間、寝込み続けました。(ある意味ささやかなボイコットですね)
おしまい(笑)
*あとがき
いやー、即興です。ホントよく書けたものです。
『終焉』より ヴァレンタインと陰謀とチョコレート をお送りしました。
なんか知らないキャラがいるぞー、と思っている方は多いはず。それもそのはず。
本編に出していないのに先に番外編で出るとは(笑)
ちゃんと出てくるのでご心配なく。
それでは、本編もお楽しみに〜